■誰も経験したことのない世界

「マイナス金利が導入された直後の2月3日、三菱東京UFJ銀行が大企業の預金口座に管理料を導入するという報道がありました。同行はただちに『検討すらしていない』と否定しましたが、本音では違う。

銀行はもはや金利の利ザヤで稼ぐことができなくなっており、ビジネスモデルの根本的な変換を求められています」

こう語るのは、とあるメガバンクの幹部。日本の金融市場は「未体験ゾーン」に突入した。これからは、今までの常識では想像もできないような事態が次々と起こり、老後の「虎の子」を直撃する可能性がある。

例えば、冒頭の口座管理料の話だ。管理料をまき上げられて、預金が目減りしていくのは大口の企業顧客ばかりとは限らない。やがて個人向けの口座にも、範囲が拡大される可能性が高い。ファイナンシャルプランナーの紀平正幸氏が語る。

「銀行としては、マイナス金利の分だけ、コストをどこかで稼がなければなりません。個人客は、口座管理料を取られることに抵抗を示すでしょうから、銀行側は振込手数料を上げたり、ATMでの利用手数料を上げたりすることも考えられます」

現在、大手銀行の普通預金の金利は0.02%。100万円を1年間預けたとしても200円しか利子がつかない。2回のATM手数料でチャラになってしまうほどの額だ。

少しでも利子をもらおうと定期預金に切り替えても意味がない。経済評論家の山崎元氏が語る。

「今や定期の金利もほとんど普通預金と変わりません。定期にしてしまうと、預金を自由に移動できなくなるので、『預金は利子がつかないもの』とわりきって普通預金にしておいたほうがいい」

預金で少しでも利子を得たいというならば、ネット銀行に口座を開くことを検討してみるのも手だ。例えばオリックス銀行のネット限定定期預金は期間1~5年の金利が年0.2%となっており、通常預金に比べ有利だ。

預金と同じく「最もリスクの低い投資先」の代表格だった国債にも、変化が訪れている。世界経済減速の懸念から、リスクを嫌った投資マネーが国債に集中しており、金利がつかない状況にある。

「安全性の高い債券などで運用してきた投資信託にMMF(マネー・マネジメント・ファンド)という金融商品がありますが、国債の金利が下がりすぎて運用が難しくなってきたので、新規購入の受け付けが停止されたほどです。もはや安心して持っていられる金融商品はどこにもない」(前出のメガバンク幹部)

個人向け国債には3年・5年満期の固定金利のものと「個人向け国債変動10」という変動金利のものがある。ファイナンシャルプランナーの深野康彦氏が解説する。

「個人向け国債変動10は、金利が変動しても最低保証金利が0.05%つくので、安全な金融商品のなかでも比較的有利なリターンを狙えるものです。ただし、今後、金利がさらに下がった場合は最低保証金利が引き下げられる恐れがあります。購入するならば、できるだけ早いほうがいい」

固定金利の個人向け国債については、もはやマイナス利回りになりそうな状況で、そもそも窓販されていない。すでに持っている国債は金利がついていた時代のものなので、慌てて売る必要はなく、期限まで持っておこう。いずれにせよ、今後は国債で利回りを狙うことは極めて難しくなる。

■解約したほうがいい保険

預金も国債もだめとなると、今後はどのような形で資産を運用すれば安心できるのだろうか。

保険商品を見てみよう。大別して、資産運用の役割を果たす貯蓄型保険には「積立利率固定型」と「積立利率変動型」の商品がある。

「利率固定型で、すでに契約しているものについては、当初契約したときの利回りが最後まで適用されますので、今回のマイナス金利の影響はありません。ですからこのまま解約せずに持ち続けるのがオトクでしょう。

逆に当面は貯蓄型保険に新規で入るのはやめておいたほうがいい」(前出の紀平氏)

より注意したいのが、積立利率変動型の保険商品だ。多くの商品は最低保証利率を設定しており、最低限のリターンは取れるようになっているが、なかには元本保証のない保険もある。マイナス金利が長期にわたるようなら、数十年かけて投資した保険金が、大幅に目減りすることだってありえる。自分の保険が変動金利型であったら、今後マイナス金利が続くことを見越して早めに解約することを検討してもいい。

老後の生活を支えるいちばんの資産である年金も盤石ではない。

年金の積立金は、現在GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が管理・運用している。

昨年8月、上海市場の暴落を機に世界的株安が襲った結果、昨年7~9月期のGPIFの運用成績は約8兆円のマイナスになった。これは総資産の5.6%に当たる。S&Sインベストメント代表の岡村聡氏は「年初来の下げ幅はさらに大きい」と予測している。

「日経平均はすでに年初から2割近く下落していますし、円高のせいで海外資産も目減りしています。昨夏の運用損を上回っている可能性が高い」

GPIFの運用成績がこのようなありさまだと、近い将来、保険料は値上げされ、逆に支給額は大幅カットとなる可能性は高い。確実にもらえるうちに、くり上げ受給を検討すべきかもしれない。

老後資産を少しでも目減りさせないために、日々の経済動向から目が離せない。

借金をすればするほど儲かる--夢のような話
史上初「マイナス金利住宅ローン」が登場する

■ヨーロッパではすでに実現

前章で見たようにマイナス金利は、資産運用においてマイナス面が多い。そんななか数少ない「希望の光」ともいえるのが、住宅ローンである。カネを借りているのに利息をもらえる-耳を疑いたくなる摩訶不思議な状況が現実になりつつあるのだ。

日銀によるマイナス金利の導入で、銀行各社の住宅ローンの金利がかつてなく下がっている。住宅ローンに詳しいファイナンシャルプランナーの高田晶子氏が語る。

「長期金利が低い水準にとどまっていることに加えて、銀行間の金利引き下げ競争が激しくなっていることもあって、昨年来、住宅ローン金利が史上最低の水準にあります」

例えば、イオン銀行の変動金利は0.57%。当初固定特別金利プランだと3年固定で0.38%というかつてなく低い水準にある。

住宅ローン金利は、大きく分けて変動金利と固定金利がある。変動金利は日銀の政策金利が基準となって定められるもの、そして10年以上の固定金利やフラット35などの金利は「長期金利(10年物国債の流通利回り)」が基準になっている。2月9日には、日本の長期金利が初めてマイナスになった。これを受けて、3月以降、各行の住宅ローンの固定金利もますます低下する可能性が高い。

目下、世界経済の混乱でリスクを回避したいマネーが逆流を始めている。インフレ目標を達するために手段を選ばないと明言している日銀の黒田東彦総裁が、さらなる金利引き下げに動けば、ますますマイナス金利が進むだろう。

そこで出現するのが、冒頭の不思議な状況だ。ファイナンシャルプランナーの紀平正幸氏が語る。

「マイナス金利を導入している欧州の国では、住宅ローンの元本を割り引いてくれる銀行も出てきました。例えば3000万円を借りるなら、最初からローンの残高を2950万円に負けてくれるというような具合です」

デンマークの住宅ローン専門会社ノルディア・クレジットは昨年末より、変動金利がマイナスになっており、顧客は毎月「利息」を受け取っている。カネを借りて「利息」を受け取るとは、これまでの金融の常識では考えられなかったような事態である。

実はすでに日本でも、実質的な「マイナス金利」状態は生じている。「住宅ローン控除」という仕組みがあるからだ。これは借入金の1%が10年間税控除されるというもの。仮に、住宅ローンの借入金利が0.6%であれば、実質的に「家を買うことで差額の0.4%の利息を受け取れる」ことになる。1000万円ローンがあれば、年に4万円ずつ丸儲けというわけだ。

これほどの好条件を利用しない手はない。すでに家を購入して、高めの金利を払っている人は早めにローンの借り換えを検討したほうがいい。

「これ以上大幅に金利が低下する可能性は低いので、早めに動くことが大切です」(前出の高田氏)

借り換える場合は固定金利がオススメだ。紀平氏が解説する。

「これほど金利が低くなると、銀行としては固定を選択されたくない。一方、変動であれば、政策金利が上がればすぐにローンの金利も戻せるので、銀行は『固定よりも変動の方が優遇金利の幅を大きくします』と変動を進めてくるでしょうが、誘いに乗ってはいけません。

(1)自分の借りている金利と現在の金利の差が1%以上ある。(2)ローン残高が1000万円以上ある。(3)返済期間が10年以上ある。

この三つの条件にすべてあてはまる場合は、借り換えにかかるコストを上回るだけのメリットがあるはずです。また、一つか二つの条件が当てはまる場合は、メリットがあるかどうか、借り換え先の銀行に試算してもらうといいでしょう」

その見積書を持って現在借りている銀行へ行って、金利を下げてもらう交渉の材料にするという手もある。顧客を逃したくない銀行は、可能な限り金利の見直しをしてくれるはずだ。

住宅ローンは、個人がマイナス金利の恩恵を受けられる数少ない分野。利用しない手はない。

「週刊現代」2016年2月27日号より